以前の記事でもちょくちょくと触れた著書ではありますが、吉濱ツトムさんの『隠れアスペルガーという才能』(ベスト新書、2016年)のレビューをしていきたいと思います。
「隠れアスペルガー」とは
「隠れアスペルガー」とは、アスペルガー症候群(AS: Asperger Syndrome)の症状があるものの、その程度が低く、医師からもその診断名を貰うことのないグレーゾーンの方のことをいいます。
吉濱さんの経験から言うと、この「隠れアスペ」は、アスペルガー全体の、少なくとも7割は占めるそうです。
そして、アスペルガーの特徴のほぼすべてに当てはまり、かつ症状の出方が極端な人は、「隠れ」ではなく、正真正銘のアスペルガー(真性アスペ)ということになります。
グレーゾーンではあるものの、アスペルガーの症状があるという状態で生活をしているというわけですから、そういった当人達は、正体不明の生きずらさを抱えているということになります。
しかし、自分の生きずらさが「脳の機能障害にある」ということが分かれば、それだけでも気持ちはずいぶん楽になるでしょう。
私は一応は、病院で「広汎性発達障害」であるという診断をもらいました。
そのときは自分の生きずらさの原因が分かり安心することができました。
その点に関していえば、「発達障害難民」にならずに済んでよかったといえるでしょう。
しかし、それに対して病院がしていた処置は「投薬のみ」でした。
そして、投薬してもらった薬を服用しても、症状が改善する兆しはあまり見られなかったような気がします。
だからといって周囲を責めているわけではありませんが、隠れであろうと真性であろうと、自身の発達障害と上手く付き合っていくためのノウハウが出てきたということは、大変喜ばしいことであると思います。
なぜならば自身の生きにくさをいくばくか改善することができるのですから。
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隠れアスペルガーの特徴
大まかな特徴
そして、隠れアスペには真性アスペよりもマイナスの症状が少なく、プラスの症状が多いという性質があります。つまり、長所が多く、短所が少ないということになります。
しかし、隠れであれ真性であれ、アスペのマイナスの症状は、放っておくと本人の才能を見えなくしてしまいます。
これは日本における貴重な人材の損失だといえるでしょう。
だからこそ、アスペに苦しんでいる人たちに「アスペは改善できるんだよ」と伝えていきたいと吉濱さんは述べています。
ちなみに本書で述べられているアスペルガー人の人間的魅力の例としては、「素直である」、「純粋である」、「優しい」、「使命感が強い」などが挙げられます。
また、アスペルガー人の能力の例としては、「学習能力が高い」、「IQが高い」、「知識欲が旺盛である」、「コピーするのが得意」、「ワーカーホリックになれる」などが挙げられます。
これはすべてのアスペルガー人に当てはまるわけではなく、当てはまる部分と当てはまらない部分がまばらではありますが、こういった長所があります。
コピーするのが得意
「コピーするのが得意」とは、既にある技術を真似するのが得意であるということです。
そして真似をするだけではなく、改善をするのが得意であるということをも意味します。
たとえば自動車はアメリカの独壇場であった分野ですが、数年でまねし、さらには20年ほどで世界の市場を圧巻してしまった例がそうです。
そしてこういった例からも分かるとおり、日本人にはアスペルガーが多いということができます。
真性アスペに限っても、先進諸国が1%のところ、日本人には2~2.5%もいるそうです。
そしてその理由は、セロトニンシステムにあります。
セロトニンシステムにはS型とL型があり、日本人にはS型が多く、約80%を占めるのが理由であるということができます。
そしてなぜ、セロトニンシステムとアスペが関係あるのかということについても、本書に記載されています。
ワーカーホリックになれる
また、「ワーカーホリックになれる」というところは、私の印象に残ったアスペルガー人の能力であります。
吉濱さん曰く、アスペルガー人は、ニートになるか、ワーカーホリックになるかの、どちらかの両極端になりがちだそうです。
だとしたら、ワーカーホリックになった方がまだいいとも述べています。
基本的にはニートの方がなりやすいのですが、何らかのスイッチが入ると、ワーカーホリックになってしまうそうです。
そしてニートになりやすい原因としては、アスペルガー人は、適応できる職場環境が限られているため、自分に合わない職場環境を選択してしまうと、たちまち不適応を起こしてしまうというのも一因であると思われます。
また、興味限局傾向があり、自分の興味のないことにはなかなか熱中できない、裏を返せば興味のあることには熱中できるということも、ニートかワーカーホリックのどちらかにしかなれない一因なのでしょう。
思えば私もこれまでずっとワーカーホリックになれる環境を探していたような気がします。
私がパズルのピースだとするならば、私がピタッとハマることができるような環境を。
しかし、そういった環境を見つけるのはなかなか難しく、見つけられずにいたため、自分が活躍できる居場所をもっている人をたまに羨んだりもしていました。

アスペルガーの改善法
そして、吉濱さんのセッションで伝えられているアスペルガーの改善法は、アスペルガー人のみならず、すべての人の人生をより良くする方法である「人生総合改善法」であるということができます。
たとえば、規則正しい生活にすること、良質な睡眠をとること、栄養を正しく摂ることなどです。
そのためには、食事をローカーボ(低糖質食)にする、サプリメントを摂取する、運動をするなどの方法が挙げられます。
しかし、ローカーボの食事療法では、同じ種類の動物性食品を摂ることが多いので、遅発性アレルギーについて知っておく必要があります。
また、消化力のついていない状態で、食事をいきなりローカーボ食に変えると体調不良に見舞われる可能性がありますので、徐々に体を慣らしていく必要があります。
それ以外にも、サプリメントの摂り方など、吉濱さんの紹介するノウハウを個人で実践する場合は、事前に吉濱さんの著書をしっかりと読み込む必要が出てくるでしょう。
その他にも、先日の『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』(KKベストセラーズ、2019年)のレビュー記事で紹介した「5つの作戦」についても、本書ではこと細かに書かれています。
関連記事:吉濱ツトム『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』レビュー
その吉濱さんのセッションで行われている「5つの作戦」は、本書の言葉で書くならば
となります。
このように、アスペルガー人の特色について、本書では科学的見地からより詳細に書かれています。
たとえば、アスペルガー人はなぜ体調が悪いのかや、なぜ自己肯定感が低いのか、また、なぜ砂糖中毒になりやすいかなどの理由などを。
また、先に挙げた、日本人にアスペルガーが多いのは、日本人はS型のセロトニンシステムの人が多いからというのもその一例になります。
それに対し、身体作りをすることや、ローカーボ食を摂ることによって、どういった効果が得られるかなどが書かれています。
感想
感想としましては、本書のみならず、吉濱さんに出会うことができて、本当によかったと思います。
なぜならば、先にも書いたように、私は「発達障害難民」にはならなかったものの、発達障害に対する解決策を見いだせずにいたからです。
病院で出来ることといえば投薬をすることのみであり、そしてそれでも症状が改善することもなく、私はこれからどうやって生きていけばいいのだろうと、絶望てきな気持ちになっていました。
勿論、それは病院が悪いわけではなく、発達障害と向き合おうとしなかった私の態度にも問題があるとは思います。
何せ、私が読んだ発達障害に関連する本は、星野仁彦さんの『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書、2010年)一冊だけだったのですから。
そして、発達障害人は哲学や精神世界といった形而上学(けいじじょうがく)的なものが好きであるという特性のとおり、私はこの生きにくさを心理学的に解決しようと思っていました。
そうした動機については、心理学の方が面白そうだからであったと思います。
そうした特性をもつ発達障害人が、自分の意志で発達障害と真正面から向き合おうとするのはなかなか難しいかもしれません。
それでも、それが吉濱さんの本がまだ世に出回る前であり、吉濱さんのノウハウが広まる前であったとしても、私が発達障害の勉強を続けていれば、もしかすると何かが変わったかもしれません。
何はともあれ、今ここで自身の発達障害と真正面から向き合うことができてよかったと思います。
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